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Selfishly

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~麗しの金獣~ 金猫の恩返し 番外編5



~ 麗しの金獣 5 ~
        ―― 金猫の恩返し・番外編 ――




「ロイ ロイー、おい、いい加減に起きろよ、遅刻するぞ」
 軽く肩に触れて揺すってくる。そして―― ゆっくりと瞼を開いてみれば
日の光の中で輝く相手を一番始めに視界に留めれる。
・・・・・ ロイの至福の時だ ・・・・・
それを感じたくて、いつもエドワードが起こしに来てくれるまで
寝たふりをしたまま待ち続けている。

明るい朝日の中で佇むエドワードは本当に綺麗で、目を開いたときに
そんな彼の姿を見れば、自然と今日の善き日を思い浮かべれる。
起こそうと覗き込んでくる彼の表情は、最初は少し呆れ加減。
きっと、良い歳をした男がこうやってぐずるのに呆れているのだろう。
そして・・・。
「おはよう」
そうロイが微笑みながら挨拶をすると、途端に頬を朱に染めて照れながら笑みを
浮かべて返してくれる。
「ん・・・、おはよう」


そんな些細な日常の1シーンだけでも、エドワードが傍に戻ってきてくれた幸せを
感じて、喜びを噛み締められる。

大切で・・・愛しくて、綺麗な自分の想い人。
そんな彼から――― ロイは目が離せない。






 *****

「何をしている」

その問いかけが降ってきた時、室内は凍りついたような静けさが訪れた。
言葉に質量があったとしたら、ハボックの身体は氷の刃と化した声に無数に刺し刻まれていただろう。
そんな恐怖を感じさせるロイの声に、長年見知ったハボックでも、ぞっと背筋に走る悪寒に
心身とも振るわせる。

「じゅ・・准将、は、早かったん・・すね」
疚しい事など微塵も無いのだが、思わず口篭ってしまったのは相手の鋭い気配のせいだろう。
そんなハボックの対応が拙かったのか、ロイの彼を睨む瞳が更に険しく眇められる。
「何をしていると聞いたんだ、余計な事など答える必要は無い!」
一刀両断に返された言葉に、ハボックは自分の危機をひしひしと実感する。
( や、やばいよ、この人。―― まじ、切れ掛かってる・・・)

「やっ・・・、べ、別に何も・・・。 ほ、本当です!
 ただ、大将の話を聞いてただけで・・・」
大慌てで身の上の弁護を始めたハボックに間を与えず、ロイはすっと近付いたかと思うと。

 ダンッ!!

ハボックの肩を引いたかと思うと、力の限りに壁へと突き放す。
「――― ってぇ・・・」
咄嗟に頭は庇ったが、その分体の方はしこたま壁に強打した。
「―― ロイっ!」
驚いたように上がるエドワードの声を背後に、ロイは痛みに顔を顰めるハボックを
睨みつけている。
「―― 話をするのに、腕を回す必要はない。
 それとも何か、―― 回して話す必要のある会話でもしていたのか?」
冷たいセリフを投げつけて、ロイはハボックを一瞥するとエドワードの方へと振り返る。
「エドワード、君は! ――― !?」
振り向き様に掛けた言葉は、エドワードの面を見て途切れたままになる。
そして、驚いた表情のままロイを見ているエドワードに手を伸ばすと。
「――― 何が、あった?」
そう囁きながら、エドワードの頬に伝う涙の跡を拭うと、その手の平をぐっと握りこんで
エドワードに背を向けて、今だ茫然としているハボックの方へと足を踏み出した。
そのまま一言も発せずに、ロイはハボックの胸倉を掴み上げると、もう片方の腕で拳を作って
振り上げる体勢を取る。
「わぁーーーー、ちょ、ちょお、タンマ!!」
咄嗟に顔を庇うハボックの行動と、振り上げられたロイの腕に飛びつくようにして
エドワードがしがみ付いて止めてくるのは、ほぼ同時になった。
「ロイッーーー!! 何するんだよ! 大尉は何もしてないって言ってるだろ!!」

あらん限りの声でそう叫ぶと、エドワードは振り上げられた腕にしがみ付いたまま
荒い息を吐く。
そんなエドワードの様子に、ロイは自身を落ち着ける為にか、深く息を吐き出し
エドワードに腕を取られたまま、ハボックの胸倉から手を離すと、ぐしゃりと前髪をかき上げる。
「――― 解って・・いる、そんな事は ―――」
とポツリと言葉を吐き出すように呟いた。
それにエドワードはホッとした表情を浮かべて、しがみ付いていた腕から力を緩める。
ロイは俯き加減に立ち尽くしながら、言葉を続ける。
「解っている、解ってはいるんだ。―― が、感情は別だ!」
そう語気強く言い捨てると、エドワードがしがみ付いている腕はそのままに、
逆の腕でエドワードの腰を抱いて引寄せる。
そして、エドワードから腕の自由を取り戻すと、その手でエドワードの顎を強い力で掴む。
「っつ・・・」
痛みに顔を顰めるエドワードを気遣う事もなく、ロイは息が触れ合うほど近くに顔を寄せると、
低く重い声で告げる。
「―― いいか、エドワード。不用意に人を近づけるな。
 例えそれが、軍のメンバーであっても・・だ」
「ロイ・・・・・・」
闇を垣間見せるロイの瞳に気圧されたように、エドワードは茫然とロイの瞳に見入る。
「男でも・・・勿論、女でも。
 私の理性が焼き切れない為に・・・な。
 判ったな」
念を押してくるロイに、エドワードは無言で何度も頷いて返すしか出来ない。
ここまで、この男の剥き出しの独占欲を目の当たりにした事はなかった。
見入ったロイの瞳の中の奥には、間違いなく狂気の彩が閃いている。
ゾクリと泡立つ感覚は、怯えだけではない。――― 歓喜さえもエドワードに
与えている。
互いの瞳に魅入られていた時間を元に戻したのは、ハボックの笑い声だった。

「はっ! ははは・・・っつぅ、痛ぇ・・・」
笑うと打ち付けられた体が痛むのか、顔を顰めながらも笑うハボックに
エドワードは気遣うように声を掛ける。
「大丈夫か、大尉・・・」
ロイの腕から抜け出して様子を窺おうにも、ロイは断固として回した腕を外そうとしない。
「ちょっ! あんたも謝れよ! 大尉にあんな酷い事してさ!」
そう抗議するエドワードの言葉など気にする様子もなく、ロイはごく当然という表情で。
「ハボック、これに懲りたらエドワードの周りをチョロチョロするな」
とのたまう。
「ロイっ!!」
怒気を含んだエドワードの呼びかけにも、ロイは不満そうな表情を返してくる。
―― そんな奴の心配などする必要はない ――
ロイの心情を言葉にすれば、そんな感じか。

「はいはい、肝に命じておきますよ」
よっこらしょと、痛む身体を庇いながらハボックは立ちあがると、
エドワードに笑いかける。
「なっ? これで判っただろ?
 大丈夫、自信を持ってぶつかってみろよ」
「・・・大尉・・サンキュー・・・・」
二人だけで分かり合ってるような会話に、ロイの機嫌がまたしても下降する。
「なんだ? 何の話だ?」
そんな判りやすいロイの様子に、ハボックは肩を竦めて見せる。
「いーえ、別に対した事じゃありませんよ。
 ―― この件は高く付きますよ」
そう告げて部屋を出て行くハボックの背後から、ロイの言葉が追いかけてくる。
「――― すまなかった・・・。暫くはたかってこい」
その言葉に嬉しそうな表情を振り返して、頷く。
「期待してます!」
そう返答すると、意気揚々と帰って行った。



何とか揉め事まで発展せずに、ロイとハボックの間が落ち着いた事に
エドワードはほっとして気を緩める。と、急にロイに抱きしめられた状態のままなのが、
妙に恥かしくなって、回されていた腕を振り解こうと身じろぐ。
「・・・もう、離せよ・・」
視線を伏せてそう告げてくるエドワードに、ロイは自嘲の笑みを浮かべて、
逆にぎゅっと抱きしめてくる。
「ロイ?」
「・・・・・まだ、ただいまも言ってなかった・・な」
そう言って、エドワードの顎を掬い上げると、「ただいま」と囁きながら
口付けを落とした。
暫くの間、互いの熱を分け合ってから離すと、エドワードも「お帰り」と
熱い吐息を吐き出しながら返してやる。
上気したエドワードの表情を見つめていたロイが、コトリとエドワードの肩に
頭を預けてくる。
どうしたんだ? と思いながらも、エドワードは置かれた頭に腕を伸ばして
漆黒の髪に指を絡める。
「・・・・・・ 驚かせたな」
耳元で囁かれた言葉に驚いて、ロイの表情を見ようとするが、伏せられていて判らない。
「君の事になると、私は・・・・・。
 ―― 全く、恥かしい限りだ・・・」
「・・・ロイ・・」
エドワードはロイの髪を梳いていた手を止めて、伏せられた頭へと視線を落とす。
「・・・ 頭では、当然、判っているんだ。
 あいつが君に何かをするわけが無い事も・・・。
 そして、――― 君が私を裏切るような行動を取るはずが無い事も。

 でも ――― 君に覆いかぶさるようにしているハボックの姿を見た瞬間、
 ・・・・・ 込上げてきた感情を抑え切れなかった・・・」

自分の浅慮な行動を恥じているのか、ロイの声にはいつもの張りが無い。
エドワードはぐっと瞼を閉じると、止めていた指を動かしてロイの髪を梳く。
そして、ゆっくりと瞼を開いて決心を固めると、ロイに問いかける。

「ロイ、――― あんたにとって、俺って魅力あるパートナーかな?」
そんなエドワードの言葉に、ロイは思わず彼の表情を確かめる為に伏せていた顔を上げる。
漸く合わさった視線を避ける事無く、エドワードは真っ直ぐにロイを見て話の続きを語り出す。
「大尉には聞いてもらってたんだ・・・俺、不安で」
「・・・・・不安?」
気遣わしげに問い返してくるロイに、エドワードは小さく頷く。
「俺は・・・男だし。―― 歳もあんたとはだいぶんと離れてる。
 しかも・・・・・禁忌も2度までも犯していて―― 公然とあんたを助ける役にも立てない。
 ――――― そんな俺じゃあ、あんたに疎まれても仕方な・・」
「エドワード!?」
エドワードの言葉は、驚いたように上げられたロイの声にかき消される。
「何を!? 君は、何を言ってるんだ!
 何故、私が君を疎まなくてはいけないんだ!?」
エドワードの両肩を掴んで、ロイは問い詰めるように揺さぶる。
「――― だっ・・だって、あんた・・・・・・。
  ―― 全然、俺に触れないじゃないか ――」
恥かしさで消え入りそうな声で返された言葉に、ロイは唖然としてエドワードを見つめる。
「ベッ・・・ベッドだって、別に買い換えようなんて言うしさ。
 ・・・戻ってきてから・・・1度だって、俺を・・・・・」
それ以上は告げれないのか、エドワードは唇を噛み締めてロイの視線から逃れるように
俯いてしまう。
ロイは驚いたまま数度、瞼を瞬かせる。
そして ―――、漸く実感した。
彼は・・・、エドワードはもう子供ではないのだと・・・。

初めての口付けの時、怯えて自分を拒んだ時の彼ではないということを。
美しく成長した外見と共に、彼の精神は更に大人への階段を駆け上っているということを。

――― もう・・・・・、自分が手加減してやる必要が無くなった事を ―――

「はっ! はっはは・・・ あははははーーー!!」
自分を抱きしめたまま、笑い声を高らかに上げるロイの様子に、エドワードは
驚いたように目を真ん丸にして見つめてくる。
そんな表情も可愛すぎて、ロイは込上げる愛しさと共にエドワードの顔中にキスを
振りまく。
「――― 全く、私ときたら・・・・本当に君の事になると・・・。
 馬鹿だな―― 馬鹿すぎて、哂うしかないよ」
「ロ・・イ?」
怪訝そうに自分の名を呼ぶ愛しい存在に、ロイは心からの願いを口にする。
―― そう、もう躊躇う必要など、どこにも無いのだから・・・――

「抱かせてくれ、エドワード。―― 君が欲しい。
 もうずっと・・・本当にずっと前から、君を抱きしめたくて、抱いてしまいたくて・・。
 ――― 仕方がなかったんだ・・・――」
「あっ・・・」
ロイの懇願とも思えるセリフにエドワードは顔中を紅く染める。
そんなエドワードに、ロイは視線を絡めるようにして告げてくる。
「私は、君に嫌われるのが―― 何よりも怖いんだ。
 だから・・・君に嫌われまいと、嫌がられて逃げられまいと、
 ずっと、ずっと自分の欲望を押さえつけてきた。
 
 ベッドの件は・・・、一緒に買いに行って、君が一人用を望むなら・・我慢しようと思ってたし、
 もし・・・もし二人で使うものを選んでくれたなら、その時は抱かせてくれる了承にしようと。
 ・・・・・そう考えていたんだ」
「・・・・・・」
エドワードは言葉も出せずに、ロイの話を聞いている。
「が、そんな遠回しなやり方は――止めだ」
そう言ったかと思うと、更にエドワードの顔に近付いて。
「抱かせてくれ、エドワード・・・今すぐ」
と言葉では乞う様に言ってる癖に、口調の強さがそれを裏切っている。
そんなロイの気迫に飲まれたように黙り込んでしまったエドワードの直ぐ傍で、
ロイはにやりと獰猛な笑みを浮かべる。
「いや―――、今から君を抱く」
そう断言すると、エドワードに驚く暇も与えずに抱き上げてしまう。
「・・・!!」
突然の展開に固まるエドワードの抵抗が無い事を幸いに、ロイは足早に寝室を目指して
歩き出す。
僅かな時間で着いたにも関わらず、ロイはその時間さえもどかしいと言うように、
エドワードをベッドに落とし、自分も上がりこんでくる間にも上着に手をかけて
脱ぎ落としてしまうと、状況に付いて来れていないエドワードの上へと
覆いかぶさってくる。
「ロ・・ロイ?」
自分の次にはエドワードの番だと言うように、衣服を剥ぎにかかる手に
エドワードは戸惑うように呼びかける。
「すまないな・・・最初は、もう少し情緒を持ってと思っていたんだが・・・。
 それはいずれ、埋め合わせするんで、今日は許してくれ」
―― 何を、許すんだ? ――
そんな疑問を問い返す時間も与えられずに口腔を奪われる。

それは、いつものように優しさを伝える口付けでも。
互いの愛情を図るためのものでもない。
奪い尽くし、貪るように食い尽くす為の行為。
相手の全てを感じ、飲み干し、全てを己の血肉とする為に。

エドワードは驚愕の混乱のまま、合わさった相手に魅入る。
そこにはいつものエドワードの良く知っている相手は存在していなかった。
居るのは・・・ただただ、相手を欲して本能のまま突き進む獣が一匹。

―― 喰われる・・・――

そんな慄きに身を震わせながらも、エドワードは愛しい獣に腕を回す。




 )) The next conclusion




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